Wednesday 16 December 2015

少女が大人になる話

茂木研では、毎年、年の瀬に、クリスマススペシャルといって、
一人一人作品をつくって披露して笑う会をする。

今回は、やっぱり実際に文章を書いて、みんなに披露したくって、
物語を書いてみた。

一つには、最近、なんとなく、この下の絵のことを思い出している。

東京国立博物館で、『大神社展』というのをやっていた時にはじめてみた、
おっきくおっきく描かれた女の神様。
左下の小さな人間に対するこのあまりの縮尺に、のけぞってしまった。

この思い出を手がかりに。


子守明神像(こちらのページより拝借





























『少女が大人になる話』

あるお母さんのもとに、女の子が生まれました。
その子は大変甘やかされて、世間知らずで夢をたくさん抱えた子供に育ちました。
そこそこ聡明だったこともあって、いつしか自信家となり、
そのうち、両親さえもこの子に遠慮をするようになりました。

自分の大きさは、実際に人に向かって試してみないとわからないものです。
この子は、それをやらないで、自分の頭の中だけで大きな人間になってしまったのです。

この子が増長すればするほど、母は縮んでいきました。

はた、とこの子が母の大きさに気がついて愕然としたとき、
ようやく、お母さんは嘆きました。

「あなたには、「そうかもしれないな」というのがない。」

「お母さんにはあなたのような頭がないから、あなたが考えることが正しいと思って、
そうかと聞いてきたけれども、あなたは聞く耳を持たなかった。
だからあなたの前ではお母さんは、どんどん小さくなってしまった。
お母さんの言うことを、そうかもしれない、と聞いてくれたのはお父さんだった。
やっぱりお母さんは、最後にはあなたではなく、お父さんを頼ることになると思う。」

正しい/正しくないよりも、「そうかもしれないな」の方が、人生には大切だったのです。

娘はこの日以来、「そうかもしれないな」と人の話を保留するように努めました。
そうして、どんな言葉も、限られた時間の間だけ存在する肉体から出てくるのだと知りました。

全てを知って発せられた言葉はない。
あるのは、生きて死んでいく肉体の連続。
娘は、自分がどれも背丈に大差の無い稲穂の中で揺れているように思いました。
大差が無いけどこんなに違う。
娘は目を回します。

「正しい/正しくないではなくて、一つひとつをちゃんと味わって、
あなたが、人のために動くようになったなら、あなたも、わたしも、自分にぴったりのサイズの体になれるでしょう。
それを大人というのです。」

お母さんはそう言って、大きな体でにっこり笑いました。

Sunday 13 December 2015

取り替え人形 (400字以内の小説チャレンジ1)



「叶わなかったことを全部やってあげるね」
取り替え人形は言った。

取り替え人形は抜け目がない。
こうであってほしかったけれど、叶わなかったこと、というのをめざとく拾って、やるのだった。
取り替え人形は思っていた。
人間は安心して違っていかなければならない。
選んでしまったことに対して、安心して進めるように、
選べなかったことを自分が引き受けてあげられたら。

取り替え人形は知っていた。
誰かの替わりにはなれない。
人が望む誰かがそうしてくれる必要があったのであって、
自分がしたところで、感謝はされないということを。

だけど取り替え人形は思うのだった。
「ほんとうにそうかな?」