Sunday, 9 June 2013

紙風船のお腹


昨日突然思い出した。幼稚園の時に一度、
夏休みに近所の大学のプールに水泳を習いに行った。
その最終日、試験があって、ある距離を泳げたら何級合格という感じになっていた。

わたしは必死で泳いでいた。
泳いでいたが苦しくて苦しくてたまらなかった。
まだかまだか、もうだめだ、というとき、
横について水の中を歩いてきてくれていたコーチのお兄さんが、
泳いでいる私のお腹を、突然に触った。
まるで紙風船か何かのように、下からぽん、ぽん、と叩くのである。
私は、どきーーーっとして死にそうだった。それでも体は浮くのだった。
その後お兄さんは私がゴールに着くまで、
ずっと、ぽんぽんやっていて、
私はいつのまにか六級合格の旗の下にたっていた。
私にとってそれは人に言えない恥ずかしい記憶となった。

それで、いままで封印して、思い出すこともなかったのだが、
ふと、昨日テレビでプールの映像を見たら突然に、
あのお兄さんの手の感触が鮮明に蘇ったのである。
それで、よくよく思い出してみて笑ってしまった。

あのお兄さん、優しい人だったんだなあ。
はじめてわかったけれども、そうだよね、幼稚園の女の子、六級合格したっていいよね。
いじわるなことをしたわけでも、いやらしいことをしたわけでも、なんでもないのが、
33歳になった私が眺めたら、わかったのだった。

それでなんかおかしくなって、思い出すまま両親に話したら、
「ああ、あのお兄さん、まるでウェイターさんみたいだったなあ、
グラスののった銀の大皿片手で運ぶみたいにお前のこと、すーって水の中でなあ」
と大笑いされてしまった。
私の頭のなかの、秘事は、全然秘事じゃなかったのだった。


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