もう日は高く上がっていて、炎天下。
全てが石でできた灰色の大きな大きな構造物。
その壁に、これもまた石でできた大きな仏陀が何体も、何体も、埋め込まれている。
心なしか、日本で見る仏陀よりも、力強い感じがする。
石像というのは、なんだか、固いというか、強いというか、独特な印象を与える物だな、と思う。
日本では、こういう石でできた、石丸出しの構造物って、お墓ぐらいじゃないかな、という気がする。
遺跡をまわっていて、特に仏教の寺院では、実際、なんども頭の中に日本のお墓が浮かんできた。
ただ、ボロブドゥールは、本当に、はじめて見る質感だった。
奈良のひろびろとした空間に、仏像が堂々と何体も並んでいるのを、
思い出さないわけでもなかったけれど、
やっぱり、この全てが灰色の、硬い石の、莫大な感じ、
炎天下で、石からの照り返しもあっては、すぐに疲れてしまうし、
(寝不足や、旅疲れもあったのかもしれないけれども)
この広大な空間は茫然とするというか、砂漠にいるような感じすらした。
そして、
壁面のレリーフだろうと、なんだろうと、
自由に触ったり、登ったり、座ったりがかなり許されていて、
色々、全然分からない、と思った。
でも、遺跡に腰をかけられるというのは、嬉しいし、実際助かることだった。
そんな風にして、日陰になっているところをみつけて、腰をかけて、遺跡の真っ直中で休んでいると、
二人の制服を着た少年に声をかけられた。
高校生で、英語の授業の一環で、ボロブドゥールに来て、
外国人を見つけて英語で喋ってみましょう、という課題で、
私達に声をかけてくれたらしい。
「僕たちは、英語を勉強しています。会話をさせて下さい。」
「あなたたちは、どこから来ましたか?」
「ここに来たのは、はじめてですか?」
「どんな印象を持ちましたか?」
私は、印象というものを、聞かれたことにどきどきして、
たどたどしく、自分は日本から来て、日本にも寺院があるんだけど、
共通点を見つけて嬉しく思ったり、まったく石の質感におどろいたり、している、
ということを話してみた。
「日本にも、仏教のお寺があるんですか。」
そうなんです。木でできていることが多いです。
「あなたたちは、仏教徒ですか?」
一応、そうですね。あなたたちは、どうですか?
「僕たちは、イスラム教徒です。」
かなでさんが、ここで
あなたたちには、この寺院はどう見えますか?と聞くと、
「僕たちは、他の宗教に敬意を持って接したいと思っています。」
といった。
話はたどたどとしながらも、ゆったりとした時間がながれはじめ、
彼らも私達の横に腰を下ろしての、会話となっていった。
私達の職業の話になった。
私は、科学者。奏さんは、アーティスト。
アーティスト、といった瞬間に、一人の子の目が輝いた。
「歌を歌うんですか!?僕は、日本の歌手で好きな人がいます!あやかさんが好きです」
奏さんは、めんくらったようだったが、
アーティストというのは、歌手のことだけをいうのではなくて、実は、ものすごーーーく広い概念で、
絵を描いたり、写真を撮ったり、映画を撮ったり、色んな人がいるんだよ、
説明がとっても難しい色んな人がいるんだよ、
ということを一生懸命説明していたのが、なんとなく素敵だった。
そして、あなたは何になりたいの?
と聞いたら、
「My ambition is...」
といって、
エジプトの大学で、アラビア語を勉強することです、と教えてくれたのだった。
もう一人の子もやはり、
「My ambition is」
といって、
さっきの男の子と同じことを目指していることを教えてくれた。
でもお金がかかるし、ここを離れるのもいやだから考えてる、
ということも教えてくれたのだった。
この石の上で、高校生の男の子が、伏し目がちな目をして言った、
My ambition is、というのと、
それが、エジプトの大学で、アラビア語を学ぶことだったというのは、
私はきっとずっと忘れないだろうと思った。
科学者と、アーティストと、おそらくはコーランに関わる職業と、というように、
あるいは、
石と、木と、というように、
なんだか、
それぞれの国が、人間が生まれてから、同じだけの時間を過ごして、至っている形が、
全て、並列に見えて来た、というか、それぞれに本当にすごいような気がして、
インドネシアも、日本も、エジプトも、アメリカも、
同じ時間だけ流れてきて、今こうなんだ、という感じがじりじりとしてきたのだった。
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