コアラが見たくて、ローンパイン・コアラサンクチュアリに行く。
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初めてオーストラリアに行ったとき、
大学のすぐ横のモーテルで朝、鳥の声で目が覚めた。
聞いたこともない、恐竜のような鳴き声。
ベッドで寝ぼけ眼で、窓から光が差し込んで床にできた木々の陰が揺れているのを見て、
未知の世界に迷い込んでしまったと夢半分に思って
どうしようかと布団に潜り込んでまた眠った。
白と黄色の大きなオウム、赤いオウム。
そういうのが普通に空を飛んでいるところだ。
だだっぴろい大学の構内を、カンガルーが飛んでいることもある。
オーストラリアは、私にとって、そのままで動物園というか、
ユーカリの木々から何から、すぐ目の前にある物すべてが、
常識から離れていて、
三ヶ月留学したときも、
まったく違う世界にいるという感じがいつまでも消えなかった。
普通に生活していてそれだから、動物園に行く必要はまるで感じないのだけれども、
オーストラリアの動物園は行ってみると、これまた素晴らしいのだった。
膨大な土地のせいだろうか、人のせいだろうか、
動物たちが本当に元気。
シドニーでは、シドニーのど真ん中、オペラハウスの前の港から
フェリーに乗って、動物園に向かうのだ。
それもtaronga zooという、不思議な音の名前の動物園だ。
私の中では、taronga zooは世界遺産。夢のような場所だった。
そうして今回、7年ぶりに、オーストラリアに来て、
それも世界最大のコアラ保護区、ローンパイン・サンクチュアリのあるブリズベン。
まずはコアラと、楽しみに向かったのだ。
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森の中、ユーカリの低木が、規則的に配置されていて、気がつくと
一本にひとつ。
丸く顔を埋めて実のようにコアラがしがみついている。
日本の美術館の仕組みになれたわたしは、
最後の目玉というかたちで、コアラに出会うと思い込んでいたら、
入ったらすぐ、いつでもどこでも手に取れるような感じで
コアラが鈴なり。
ああ、いつだって、オーストラリアはこうなんだ、と思う。
コアラをだっこして写真を撮るコーナー。
こういうのって動物にとってどうなんだろうと不安に思いながらも
やっぱり並んでしまう。
見ていると、入れ替わり立ち替わり、
コアラがなんとなく疲れると、鈴なりの木から、別のコアラをとってくるみたいな感じで、
係員さんが抱きかかえて連れてくる。
こんな感じだったなら、コアラにとってもむしろ、あ、お仕事ね、と
なんとなく刺激があっていいんじゃないかと思ってしまうほどだった。
私の番がきた。
緊張して、係員さんの指示に従って、
両手を下で組むと、
その上にとんとコアラが乗った。
私のホールドが甘かったのか、
がしっと肩につめでしがみついてきた。
イタイ!と声を上げそうになったけど、
コアラがびっくりしてしまってどんなことになるかわからないと必死でこらえた。
なるべく平静をたもって、コアラの様子に耳を澄ます。
するとぐんっと、コアラが顔を上げて私を見た。
おそるおそるのぞき込むと、
体に電気ショックが走った。
肩に食い込んだ爪は痛いけど、
しっかりとしがみついてくれているおかげで、片手が自由になって、
体をなでると、
カーペットのようなごわごわした質感で、
うわあ、うわあ、かわいいなあ、しかも人間の赤ちゃんよりもずっと軽いような気がするなあ、
そんな思いの中で、
彼と目を合わせると、一瞬で、
まったく自分の論理の通じない、全然違う生物だとわかった。
とんでもないものを今自分は抱きかかえているんだと
だらだらと冷や汗がでてくるのがわかった。
動揺の中、カメラマンに向かって笑顔を作る。
係員さんにお戻しする。
たったの2、3分だっただろうか。
ごわごわと軽い感触がいつまでもいつまでも手に残った。
一瞬だけのぞき込んでしまったコアラの世界も忘れられずにいる。
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自分とは全く違う物を好きになる、そんなことが起こったのだった。
以来、非典型的な人間にお会いすると、コアラを思い出すようになった。
全く違う、自分の論理で生きている方が、幸いなことに私の周りにはいて、
コアラを見つめるような気持ちで眺めている。
lone pine koala sanctuaryカメラマンさん撮影 |
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