Wednesday 27 March 2013

記憶

今年の元旦、母方の祖父母が、何十年ぶりに、我が家へやって来た。
父の生家に私たちは住んでいるので、母方としては遠慮があったらしく、
私たちが小さくて面倒を見る必要がどうしてもあるときを過ぎてからは、
ずっと来てなかったのだ。
でも、昨年末、屋根を直したり、色々と家の修復をして、綺麗になったことを知って、
祖母が来たい、と言うことを口にしたので、お正月に呼んだのだ。

元旦、兄もお嫁さんと一緒に帰ってきた。

そして、父母、私が迎えた。

こんなにたくさん家族が集まるのは、なかったことで、
わたしはなんだかその日とても楽しく、
祖父もいつになく饒舌で、たくさん笑って、とても幸せな気持ちになった。

そして、3ヶ月が経って、この間である。
お彼岸で、祖父母の家に行ったときのこと。
普段からちょこちょこ顔を出してはいるが、
お彼岸ということで、この日も、祖父母、祖父の妹夫婦、母、私と、
めずらしく、一家が集まったという感じがあった。
やはり、たくさん笑って、
そうしたら祖父がまためずらしく饒舌になり、
突然嬉しそうに、こんなことを言い出した。
「この間、おまえのうち行ったときよう、久しぶりに繁夫さんに会ったなあ!
奥の部屋から、ちょっと顔出されてよう!
もう繁夫さん、何歳になるんだ?」

私たちは固まってしまった。
繁夫さんというのは、父方の祖父で、私が小学生の時に亡くなってしまっている。
私は、動揺して、
「うん、生きていたら、100歳くらいになるかなあ。。」
と答えたら、
「100けぇ!そうかあ、じゃあやっぱり、俺のことわかんなかったんだべ!
奥の部屋から、すっと顔出されて、すぐひっこまれたみたいだったかんなあ。」

その後も、戦争中、自分が、学徒動員で、炭鉱に行ったら、繁夫さんがそこにいたんだよ、
だから母を嫁に出す前から、知ってたんだ、とかいうことも含めて、
何度も、この話を繰り返すのだった。

私は、なんだか胸がいっぱいになってしまって、
「ねえ、おじいちゃん、繁夫おじいちゃんなんかいってた?
どんな顔してた?」
と聞いたら、
「なんでだぁ?なんかいってたの?」
「ううん、ただ、何か話したのかなあって思って。」
「いやあ、おれのことわかんなかったんだべ、奧から顔をちょっと見せられてよう、
すぐ、入っちゃったみたいだからよ。」

繁夫おじいちゃんが、本当にいたのかどうかはしらない。
でも、繁夫おじいちゃんがいたとしても、
ただおじいちゃんが繁夫おじいちゃんをみたということでも、
どちらでも、涙を堪えることが出来なくなって、私は急いで外に出てしまった。

色んなことを忘れやすくなっているおじいちゃんが、
私の家に来た楽しい時間のことを覚えていて、
その記憶と、繁夫おじいちゃんの記憶とが結びついてしまっただけだとしても、
それはなんとあったかいことだろう。

そして、奧の部屋から顔を出した、おじいちゃん、というのは、
絵が、びゃびゃびゃ、っと一瞬でわたしの頭にも浮かぶのだった。
顔がはっきり描けるのだ。

それに確かに、この日はお彼岸のお中日だった。




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